いつものように店に来て、蒼太の手仕事を見ていた旭が、自分もやってみたいといいだした。
だが旭は絶望的に不器用だ。
以前も旭に乞われて、ためしに簡単な一品物を教えてやろうとしたが、その時派手に指を切り、流血騒ぎになった。
以来、旭に包丁を持たせるのだけはさせない事にしている。
「お前には無理や、なんとかに刃物って言うやろ」
「蒼太さん酷い! 俺が馬鹿だって言うの?」
料理人の包丁は家庭用と違う。
下手をすると指を落とす。
とてもじゃないが旭には無理だ。
「料理なんぞ出来んでもええやろ、どうせ全部俺が作るんや」
「でもさ……」
いつまで経っても偽恋人の位置から進展しない、旭との仲に焦れてきた蒼太は、自覚してしまった恋心を持て余す。
だがもし告白したとして、旭がなんと答えるのか、それを考えると怖くてたまらない。
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