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官能小説 | 歴史・時代 | 二人蔵の中よりT | 夢月亭清修 [p.1/p.7]

『二人蔵の中より <全4話>』

官能小説 | 歴史・時代 | 二人蔵の中よりT | 夢月亭清修 [p.1/p.7] | 幻創文庫[p.1/p.7]

二人蔵の中よりT

[p.1/p.7]
 蔵の内側に灯されたるは唯一つ――カンテラの灯りが唯一つ――。
 日清、日露の二度の勝利に浮れ、次の大戦を間近に控えた日本国の、花開くかに新たな大衆文化の横溢目まぐるしく、やれ活動写真だの何だのと、欧米への憧れが前時代よりの文化を塗り替えていく様、この時代、著しく。
 嗚呼、大正の、そこに芽生えたるは『自由恋愛』と云う名の新たな恋の形――それによって自殺も心中も流行期を迎えるわけだけれど、ここ、蔵の中にも、一組の男女ありて死する前の秘め事に耽る。
 蔵の中は蔵の中なれば、都市間電気鉄道等、工業化をまざまざと顕現して憚らぬ都市景観とは打って変わり、そこに在る物々の前時代的な、事実うっすら埃を被った有様がぼんやりと見える。
 ぼんやりと――そう、灯りは唯一つ、床に置かれたカンテラの、甘い吐息にさえ揺れるような頼り無さ。
 しかしはっきりと、壁に睦み合う男女の淫靡な影を、投影していた。