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ボーイズラブ | SF・ファンタジー・ホラー | 鼓動、旋律、君のこえ 16:犯されたい | るくみる [p.1/p.5]

『鼓動、旋律、君のこえ』

ボーイズラブ | SF・ファンタジー・ホラー | 鼓動、旋律、君のこえ 16:犯されたい | るくみる [p.1/p.5] | 幻創文庫[p.1/p.5]

鼓動、旋律、君のこえ 16:犯されたい

[p.1/p.5]
 相楽が去っても我関せずで隅っこで丸まっていたタマは、俺が揺すってもアクションをまったく起こさなかった。タマが喋らないから、俺たちはこんなに近くにいるのに音は容赦なく遠ざかる。触れ幅の大きすぎるこの生活にも慣れたけれど、やはり俺はタマの声が聴きたいと思った。
 相楽の話によると、ノイズレスのコアとなったもとは人間であったもの、そいつが望んだ世界とはすなわちこういうことなのだろう。いわゆる雑音がなく、良質な音楽だけで形成される世界だ。絶対音感のあるひとにはすべての生活音に音階がつくという。ただ、そのすべてがその人物の望む美しさを保っているかどうかは疑問だ。音楽だけが占める世界。奏でるひとがいなくなればすべてなくなってしまうのに、自分の力を過信して、欲に引きずられるままに音を貪欲に取り込んで怪物と化してしまった憐れなひと。音楽だけ残ってなんになるだろう。演奏家がいなければ、その未来に賛同する人間も現れない。音楽は共有されてはじめて命を与えられるものなのに。
『タマ。行こう』
 反応を望むのを諦めると、その黒い毛玉をすくうように抱き上げた。抵抗されるかと無意識に力を込めたけれど、タマは俺の胸のなかでおとなしくしている。小さく息をついたところで、その吐息さえ自分の耳には届かない。歩き出しても、黒いかたまりはその息づかいを毛の上下で知らせるだけで、なんの反応もなかった。