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ボーイズラブ | SF・ファンタジー・ホラー | 光と影、夜と昼【48】 | 桜井哉々子 [p.1/p.2]

『光と影、夜と昼 <全109話>』

ボーイズラブ | SF・ファンタジー・ホラー | 光と影、夜と昼【48】 | 桜井哉々子 [p.1/p.2] | 幻創文庫[p.1/p.2]

光と影、夜と昼【48】

[p.1/p.2]
(なにゆえあのようなところに……!?)
 しかし、自分がいって肩代わりできるような状況でもないのは、見れば分かった。それができるくらいならば、そばにいるリャオがとっくにそうしているだろう。リャオとて勇者だ。その辺の並の武将など相手にもならぬ。そのリャオが、加勢もせずに手をこまねいているということは、それなりの理由があるはずだ。
(仕方もない……! 責めは全てわたしが負う!)
 シャンガは馬の腹を蹴った。戦場を広く駆けまわりながら、重大な越権行為であることは承知で大音声で呼ばわった。
「ガンツェさまのご命令だ! 銀山への道をふさげ! 包囲に入る!」
 味方の主な将たちがそれを聞き、自らの若党らに声をかけながら動きだすのを確認して、シャンガは己も銀山への道をふさぐ位置へと馬首を向けた。手下(テカ)の者たちがシャンガのもとへと集ってきた。
「グエン将軍家の名誉に懸けても、最早この先へ一騎一兵たりともゆかせるまいぞ!」
 それぞれ血濡れの鑓を携えている手下の者たちが「オオッ!」と声を上げた。
 しかしシャンガとその一党のみでは、銀山への道を完全にふさぐには明らかに手不足だった。
 シャンガは我が脚のように馬を操り、老練さを発揮して次々に敵将敵兵を倒していったが、比例して疲労は蓄積されていった。そしてついに、敵の鑓を左肩に受けた。
 シャンガが負傷したのを見て、敵方の若い騎馬の将が馬を寄せつけてきた。
「手負いならば楽に討ち取れるとでも思ってか!」
 シャンガは不敵に笑い、力強く敵将の鑓を薙ぎ払って落馬させた。シャンガの使う若党が二人、その若い敵将に組みつき、とどめを刺す。
 そのあいだに、シャンガへ再び、壮年の敵将が鑓を突き出してきた。シャンガは負けじと鑓を振るったが、左肩の傷がシャンガの動きを不自由にした。痛みもまた、気力を削いでいた。万全のときならば、相手はシャンガの敵ではなかった。だが、シャンガの武運もここまでだった。
(分を越え、若さまのご命令を騙り味方を動かしたことを若さまにお詫びせねば……)
 そう思いながら、甲冑の隙間から腹に深く鑓を受けたシャンガの身は傾ぎ、ゆっくりと馬から落ちていった。
 折しもそこへ、例の悪鬼の如き敵将をついに打ち倒したガンツェが、リャオらを引き連れて駆けつけた。
「これ以上銀山へ向かわすな! 包囲せよ!」
 主君の声が轟いたことでガンツェ隊の士気は再度上がり、ケフリアの将兵を押し戻し始めた。

 銀山へ向かった敵軍の将兵をホールデン隊は待ち受け、矢を射かけた。人馬の流れを無理に押しとどめることはせず、繰り返し矢を射かける。矢傷を負った者たちが次々に脱落してゆく。
 ホールデンは配下の者たちを指揮しながら、眉をひそめていた。
(思ったより、銀山へ向かう数が多いな――)
 しばし考え、心が決まるとホールデンは鐙(アブミ)に立ち上がり、叫んだ。
「ダッガ! エリジャノ! 配下を率いて敵中に切り込め! 銀山へ向かう数を少しでも削れ!」

 ホールデン隊の攻撃をしのいで先へ進んだケフリア軍は銀山よりだいぶ手前で一旦進行を止め、ここまでに残った将兵を集めて再編成し、人馬を休憩させようとした。
 が、待てど暮らせど水桶を携えた補給部隊がやってこない。これでは馬たちに水を飲ませることもできぬ。普段ならば川なり湖沼なりで存分に水を飲ませてやることができるが、グゼール台地ではそれが不可能だ。
 補給部隊の足はのろいのが当然だが、それにしても、二時間待っても、遠くにそれらしき影すら見えぬ。ハンダイル軍とて馬に水を飲ませ、人馬に十分な休息を与える必要があるから、すぐには再び襲ってこないであろうが、それにしても我が軍の補給部隊はどうしたことか――。
 苛立ちながら待つケフリア軍の情勢を、例の防禦柵のところまで出て布陣していたマジェイア将軍のもとへ斥候が伝えた。
「そうか。……敵が弱っているなら、こちらから打って出るとしよう」
 決断したマジェイア将軍は、防禦柵を出て敵を襲うことを伝える狼煙(ノロシ)を上げることを命じると同時に、配下の五○○○名に号令をかけた。
「我が軍の作戦は、ここまで全て成功している。ケフリア軍は補給部隊を失い、水も食物も手に入らず、人馬とも弱り、苛立っている。この機を逃さず、我らは打って出る! わたしにつづけ!」
 歴戦の勇将であるマジェイア将軍が先頭に立って馬を駆る姿に、配下の者たちは奮い立った。
「将軍をお守りせよ!」
「総大将の作戦は今回も大当たりだ!」
「手柄がほしいなら、この戦闘が最後の機会だぞ!」
 勇ましい言葉を口々に叫びながら、軍勢は整然と、しかし雄々しく突進していった。