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ロマンス小説 | 学生・学校 | 43aの爪先立ち | 悠路 [p.1/p.10]

読み切り

ロマンス小説 | 学生・学校 | 43aの爪先立ち | 悠路 [p.1/p.10] | 幻創文庫[p.1/p.10]

43aの爪先立ち

[p.1/p.10]
良平を好きになってから、すごく思う。付き合ってからは、余計に。

「…良平」

中学の頃は、そこまで意識していなかったこと。

「良平!」
「ん?」
「あの、さ……」
「なん?」

自分の身長の低さ。あたしは145cmのチビで、そして良平は188cmの巨人ってこと。
小声じゃ聞こえもしないし、突然ちゅーしたくなっても簡単には出来ない。
名前を呼んで、良平が身を屈めたって、まだまだ遠い、あたしとこいつの唇の距離。

「何でもないっ!」

悔しくって、いつもちゅーを出来ないままプイッと顔を背けちゃう。

「何それ」

プッと吹き出す、その唇。今あたしはそれが欲しいんだけどな、なんて死んでも言えない。
だって、恥ずかしいもん!

「なぁなぁ、ミィちゃん」
「なんよ」
「ほんまに何でもないん?」
「ないよ」
「ほんまにほんま?」
「しつこいっ」

苛々した口調で言っても、頭の中はお花畑。良平も知ってるのかな、全然怯まない。
いつのまにか耳元に寄せられてた口が、囁いた。

「俺は、今めっちゃちゅーしたいねんけど」

なっ、ばっ!!

「あほ!変態っ」

同じことを考えてたあたしに、怒鳴る資格もないことは、よーくわかってます!
で、でもさ、怒るしかないやんか。「あたしも(はーと)」なんて、言える訳ないやんか!

「したら、あかん?」

その顔、ずるい…。したかったのに、我慢したんだよ、あたし。
それを良平は、ぽんぽん口に出して、簡単に願望を叶える。
負けちゃうあたしが、馬鹿なんやけどさ…。

「あか、ん…」

そうやって恨めしく思いながらも、あたしの目は良平のそれに吸い寄せられる。拒む言葉も、弱々しい。

だってやっぱり、したいもん!

「じゃあさ、じゃあさ!」

目を輝かせた良平が、再び背中を折り曲げあたしの耳元に唇を寄せた。
ふわっと香る、良平の匂い。洗剤かな、それとも柔軟剤?
とにかく大好きな匂いが、あたしを包み込む。めちゃくちゃ幸せ。

「俺ん家で、は?」

そして、ドキドキ。心臓が弾んでるのを、自覚出来るくらいの脈動。

こんなになってるのに、良平は気付かないんやろうか。
「ほんとは今すぐしたい」って、あたしの目は訴えてるはずなのに、いつもと同じ笑顔を向けるだけ。少しだけ爪先立ちしてみたけど、二人の距離は変わんない。

「来る?」

良平に気付かれる前に、そっと踵を地面に戻したら、ちくりと胸が痛んだ。

「……行く」

やった、とガッツポーズをして、零れた笑顔の覗いた八重歯。可愛いと思う、髪の毛をぐしゃぐしゃっと掻き混ぜてやりたいぐらい。

でもさ、あたしには出来ない。
チビだから、届かないから。

「じゃ、早く帰ろ!」

ごく普通に、左手を後ろに伸ばす良平。手を繋ごうって合図。それに、当たり前に気付くあたし。
逆ならきっと、良平は気付いてくれないんだろうな、なんていじけちゃう。
地面に這いつくばるあたしの些細な動きなんか、遥か上空の良平に見える訳ないんやから。

「ミィちゃん?」

良平が、今度はわかりやすく、あたしの胸の高さで手を差し出す。

「ん。手」
「……」

ちょっと、悔しいやん。

「繋ご?」

あたしは、気付いてくれないからって、手を出すことも躊躇ってるのに、良平は気付かれなくても平気で催促出来る。
臆病な自分が、情けないやん。

だから、言ってしまった。

「いやっ!」

拒んで、睨んで、自分でも何やってんのかわからへん。
馬鹿なことしてるってのは、重々承知。

「なんで?」
「嫌やから!」

あー、どうしてこうも、ひねくれてるんやろ。
繋ぎたいのに、良平に触れたいのに、くっつきたいのに…。

「ふーん…」

離れていって、視界から消えた良平の左手。あたしは膨れっ面のまんま。ほんとはすっごく、名残惜しい。
沈黙が、チクチクと肌を刺す。緩慢な足運びが、心臓を不吉に高鳴らす。

……怒っちゃったかな?
怒るよね、あたしなら悲しいもん。
なのに、なんでこんなことしちゃうんやろ…。

辛くなって、俯きかけた時、視界に飛び込んで来たものがあった。

「でも俺は、繋ぎたいから」

それが何かと認識する前に、あたしと良平の手は、一つになっていた。

良平の大きな左手の中の、あたしの小さな右手。
じんわりと熱くなってくる。

「たまには、我が儘にもなる良平君です」

めちゃくちゃ、悔しい。

「今度はミィちゃんの我が儘、聞くから。な?」

何もかもが可愛くて、許せちゃう。それが悔しい。

そんなの、我が儘なんかじゃないのに。
あたしだって、したかったのに。

でも、仏頂面で頷くしか出来なかった。
唇が動かないことが、悔しい。
良平といると、悔しいことだらけだよ。