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ボーイズラブ | SF・ファンタジー・ホラー | オメガバース イタズラな情欲 27 | 江原 里奈 [p.1/p.2]

『オメガバース イタズラな情欲』

ボーイズラブ | SF・ファンタジー・ホラー | オメガバース イタズラな情欲 27 | 江原 里奈 [p.1/p.2] | 幻創文庫[p.1/p.2]

オメガバース イタズラな情欲 27

[p.1/p.2]
 
 結局、妹と離れる決断はできず、俺はマルトの街に残った。
 仮住まいは、もちろんナオおばさんの家だ。
 発情期が終わって落ち着いた俺は、リュウやユンと協力して積荷などの力仕事を手伝っている……とは言っても、非力な俺は半分程度の働きしかしていないけど。
 一方、アリサは事務所の仕事をやり始めた。
 研究所にいたときに、読み書きや計算などを教わったから、ナオおばさんいわく、アリサは即戦力になってるようだ。
 食事を作るときも、おばさんがみっちりとレクチャーしている。
「ユンってばいい子を見つけてきちゃってうれしいわー」
 と、事あるごとにおばさんに言われると、俺も思わず笑顔になってしまう。
 自分たちの食いぶち稼げるくらい貢献しなきゃ、ナオおばさんに悪いからな。
 おばさんは、しきりにユンに早く結婚しろ、と勧めている。
 ユンとアリサが正式に夫婦になれば、俺がこの家に居続ける理由にはなる。
 こんなにあたたかい大家族の一員になれるなんて、少し前には思いもよらなかったこと。
 日中はハザマ商会の仕事を手伝い、夜には食卓を肉親のアリサとその配偶者であるユンと、ナオおばさんたちといっしょに囲む。夜風を遮る部屋も与えられ、安心して眠ることができる。
 ナオおばさんもユンも、俺たちがオメガだからといって卑下することはないし、俺たちを偏見に満ちた外界から守ってくれるだろう。
 この家にさえいれば安全で、平凡なしあわせを手にすることができるのだ。
 それ以上の幸運が、オメガにとってあるだろうか?
 ……が、俺の気持ちはなぜか沈む一方だ。


(本当に、それでいいんだろうか……?)
 俺は、寝室で窓の外を見て溜息をついた。
 夜空には、冴え冴えとした月が輝きながら俺を見下ろしている。
 あの夜……メディス伯爵と最後に会った夜と、同じ月の形に戻ろうとしているところだ。
 つまり、あれからひと月ほどが経とうとしている。
 彼のことを想うだけで、なんだか胸がツキンと痛くなる。
 時間が経つごとに、抱かれたときの昂ぶりが生々しく甦ってくるのはなぜなんだろう?
 そのたびに発情期でもないのに、体が熱くなってしまう。
(っつーか、すげーバカバカしい! こんなにヤツのことばっかり考えてるなんて……!)
 と、苛立ち紛れに思った。
 こんな調子じゃ眠れそうにないから、ユンがアリサと遅くまで下で喋っているのも気にならない。
 最初のうちは、二人の仲睦まじい会話を隣で聞いていたけれど、なんだかそれも面倒になってきた。
 仲がいいから結婚したいわけだし、これから家族になる間柄なんだから話が尽きないのは結構だ。
 でも……俺は結局のところ蚊帳の外で、手持ち無沙汰になってしまう。
 それだったら、一人でぼんやりしていたほうが何百倍もマシだ。
 だからって、メディス伯爵が恋しいわけじゃない。
 そんな単純な理由じゃない……と、思いたい。
 あの夜、「愛してる」って言ってくれたこと。その昔、「つがいになる」って約束したこと。
 その事実を知って、思わず心が震えた。
 だが……彼は、俺を「つがい」にはしなかったし、王都に同行させようともしなかった。
 情事のあと、城館まで送ってくれただけ。
 何の約束もない、あっけない幕切れ。
 あのとき、ヤツはひどく無口だった。それまでの昂ぶりが嘘のように、冷たい横顔をしていた。
 そうだ……結局のところ、俺は伯爵に捨てられたのかもしれない。
 なにが原因だかはわからない。
 メディス伯爵にとっての俺は、オメガ性という研究材料であり、肉体的な欲求を満たす道具。二重の存在意義はあるにしたって、利用価値が薄れればゴミ同然なんだろう。
 俺がマルトに残ろうがどうしようが、ヤツにとってはどうでもいいに決まっている。
 またどこかで再会して、お互いがそういう気分になればヤルんだろうし、そうじゃなければヤラないだけのこと。
 なんだか、そう思うとムシャクシャしてきた。
「くっそー……!」
 俺は、握りこぶしで窓を叩いた。
 ガラスが揺れて、その向こうにある月が微かに揺らいだのを見て、なんだか虚しくなった。