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官能小説 | 純愛・ラブストーリー | 森の中 第一話 | 萩原 歓 [p.1/p.5]

『森の中』

官能小説 | 純愛・ラブストーリー | 森の中 第一話 | 萩原 歓 [p.1/p.5] | 幻創文庫[p.1/p.5]

森の中 第一話

[p.1/p.5]
 
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 乾いた風が吹き、紅葉を落とす。

 瑠実は落ちてくる紅葉を手の平に受け取って上を見上げた。昼過ぎだが鬱蒼と茂る森の中は薄暗く、風は渇いているのに止むと湿り気を感じる。日ごろ乾燥したスーパーの屋内で接客業を行う彼女にとって、森の中はしっとりとして静かで身も心も休まる場所だ。
 高さ三十センチほどのちょうど腰かけるのに程よい切株を見つけて座る。ほっと一息つき気が付くと辺りは切株だらけだった。
(座るまで気が付かなかった。伐採中なのかなあ)


 この森は市内のおすすめハイキングコースに入っているはずで伐採の予定はなかったはずだ。少し、あれ? っと思ったが気にせずに森林浴をしていると、突然後ろから
「君。何してるの? ここは私有地だよ」
 と、声を掛けられた。
 ドキッとして振り向くと、アイボリーの作業服を着た四十代前半ぐらいの男が立っていた。

「え。あ、あの。ここハイキングコースじゃないんでしょうか」
 立ち上がって瑠実はビクビクしながら男に訊ねた。
「ん? ハイキング?」
「はい。下の公園からこの地図の通りに来たんですけど」
 瑠実は折りたたまれた地図を広げて男に差し出した。

「どれどれ」
 男は四角い銀縁の眼鏡を微調整しながら地図を眺めた。
「どこから出発したの? 今ここだけど」
 紙の上を這う男の指先を見ていると今の位置は目的地の森と四十五度ほどズレている。
「えっ。そんなあ。ここだと思ったんです……」
 泣きそうな顔で言う瑠実に男は、短く刈られた爪をつんっと立てるように一点を差し
「きっとここの分岐で間違えたんだな」
 と、静かだが厳しい口調で言った。
 男の他人を寄せ付けない威圧的な態度に瑠実は緊張し、なんとか声を振り絞り
「勝手に入ったりしてすみませんでした」
 と、頭を下げながら言い後ずさりした。

 男は不躾にも瑠実の顔をじっと見つめる。勤め先の高慢な店長でさえこのようなプレッシャーを人に与えることはできないだろう。視線を痛く感じながらゆっくり足を一歩さげると柔らかい濡れた落ち葉を踏んで滑り、しりもちをついてしまった。
「あ」
 尻を打ったが痛みはなく、ただただ恥ずかしさで赤面をしすぐ立ち上がって、また頭を下げて立ち去ろうとした。
「待ちなさい」
 男がきつい口調で瑠実の行動を制す。命令口調に瑠実は立ち止まった。
「切ってるじゃないか……」

 滑った時に鋭い木の枝に引っかかったらしい。太腿の真ん中あたりから膝までの側面を一五センチほど黒いレギンスごと破いて傷になっている。
 傷は浅いようだが滲み始めた血を見て瑠実は痛みを感じ始めた。
「山の中にこんな軽装で来るなんてな。それじゃハイキングどころか散歩だ」
 忌々しそうに言う男に瑠実は辛い気持ちになり泣きたくなるのを我慢していた。
「すみません。失礼します」
 去ろうとする瑠実に
「待てと言ってるだろう。こっちに来なさい」
 と、手首をつかんで引き寄せた。そして引っ張るようにして歩き出す。瑠実はおびえた小動物のようにされるがままに連れていかれた。